
根津で割烹「気生根」を営んでおります。皆さん、割烹という言葉に聞き馴染みが無いかもしれませんので、ご紹介いたします。これは日本料理の一種を指す言葉です。「割」の部分は包丁で物を切ることを、「烹」の部分は火で煮炊きして加熱調理をすることをそれぞれ表しています。
お店では、東京で獲れた素材を使った料理をお出ししています。東京と言っても皆さんはイメージしにくいと思いますが、八丈島や青ヶ島などの太平洋に浮かぶ小笠原諸島なども実は東京都です。地産地消を意識しています。
江戸前寿司と言われる寿司に使われる海産物の8割はここで獲られています。「タカベ」という魚をお店で出していますが、東京生まれでも食べたことが無い人がほとんどです。野菜も地産地消にこだわっています。江戸の伝統野菜は現在52種類あります。「あしたば」という野菜を知っていますか?いま出回っている小松菜は実はチンゲン菜とのかけ合わせの品種になります。本来の小松菜は、茎がもっと太いものになります。
動画では「島寿司」を作っているところです。このお寿司は、八丈島で発展した独自の料理です。少し甘めの醤油に漬けた魚の切り身を酢飯の上に載せるのですが、島ではわさびが取れないので代わりにからしを使って頂きます。とても面白い発想ですよね。こういった、江戸時代からの「東京」の料理も紹介しつつ途絶えないように伝えていければと思います。
実は私は、最初は獣医を目指していました。私は、特に勤務医として働くのではなく、研究者としての道を進むことを考えていました。医療と聞けば、お金が儲かるというイメージがあると思いますが実は、基礎研究と呼ばれる項目は全然お金になりません。事実、私がいた研究室は国立大学でしたが予算が貰えずに経営破綻をしてしまいました。
その後、大手の会社に勤めましたが自分の母親が日本料理の仕事をしていたことと、納得のいく素材での料理をしていきたいと思い、母親の元で料理の修行をして現在に至ります。
私は、東京で生まれ東京で育ちました。以前は亀有に住んでいたのですがその時、祖父母が庭で家庭菜園をしていて、朝食に庭で取れた東京の野菜をいつも食べていました。この何気なく食べていたものが、江戸時代からの伝統野菜というものだったということを思い出し、野菜についての勉強を始めたのがきっかけで、今では地産地消にこだわった割烹を経営するようになりました。
Q:お仕事のやりがいはなんですか?
A:おいしいと言ってもらえることです。料理は、調理よりも仕込みと言われる準備の作業をしている時間がとても長いです。一人でやっているので何十種類も仕込みをするのはとても大変ですが、やはり「おいしい」「これどうやって作るの?」等の声を頂けると非常に嬉しいです。
また、江戸の伝統野菜はなかなか野菜市場に並ばず、その日にならないと何が並ぶか分かりません。そこにあわせて献立を考えて、どうやったら美味しく食べて貰えるのか?この献立と材料の組み合わせを作るのが大きな醍醐味です。
Q:お店を出して何年目ですか?
A:以前は神田でしたが、根津に移って来てから4年です。下町ということで、お店でお出しする料理との相性が良いのか、おかげさまでお店を続けさせて頂いています。
Q:アシタバやタカベの旬はいつ頃でしょうか?
A:タカベは初夏から8月にかけて取れるお魚で、ちょうど今が旬です。明日葉は、一年を通して取ることが出来ます。
人生は何がどうなるのか、何がきっかけでどうなるかはわかりません。私も獣医学部を卒業し国立大学の医学部で研究をしていましたが、今は料理人として生きています。
将来の夢、やりたいことは代わってもいいのです。やりたいことがあればどんどんチャレンジしてほしいと思います。皆さんは若いですからそういった可能性をたくさん持っているのです。